講座
公衆衛生における細胞遺伝学研究(その1)—健康状態と染色体の異常
森本 兼曩
1
,
小泉 明
1
Kanehisa MORIMOTO
1
,
Akira KOIZUMI
1
1東京大学医学部公衆衛生学教室
pp.202-209
発行日 1984年3月15日
Published Date 1984/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206836
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■はじめに
公衆衛生に関する活動が人間の健康を対象としながら,極めて広範な分野にまたがっている事は言うまでもない.この公衆衛生諸分野の活動には,大学・研究所における基礎的なbiomedicalな研究から始まり,経済・政治或いは教育分野をも広く含めたいわゆる健康政策に関する活動も,近年特にその重要性を増してきた.しかし,それに従事する専門家のactivityという観点からすると,今もって公衆衛生学の対象は疾病像とその分布の把握であり,それをいかにコントロールするかという点に主力が注がれていたように思われる,しかし,近年様々な社会的要因の変化と医学生物学分野における研究,特にDNA染色体研究と疾病像の関連の研究が進展したことにより,公衆衛生活動の対象を疾病状況の現状把握という静的な場面から,より積極的に健康状況の保持,増進或いは疾病の予防という点に具体的な活動の主力が移りつつあるといえる,勿論,特に近年死因の第1位となった発がんの機構,或いはその要因の解明と制御という課題は,公衆衛生活動の重要な目的としてむしろ社会の側から要求されているかのように思われる.又,最近の医学生物学の基礎研究と臨床研究の総合化の中から,多くの疾病の要因として遺伝的な素因が,環境要因のそれと複雑にからまりあいながら作用している事実が,具体的に明らかにされてきた.
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