衛生公衆衛生学史こぼれ話
37.黒球寒暖計の考案
北 博正
1
1東京都環境科学研究所
pp.196
発行日 1987年3月15日
Published Date 1987/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207436
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1932年,英国のバーノン(H.M.Vernon)は黒球寒暖計という計器を考案・発表した.これは厚さ0.5mmの銅板で直径6インチの中空の球を作り,その一部に寒暖計を固定する口がついている.これは国旗を掲げるとき,旗竿の先端につける金色の球とよく似ている.高温職場で熱中症を予防するためのもので,黒球温(黒球寒暖計の中心部の温度)と気温との差から,輻射熱の強さを測る簡単な計器であるが,実用的価値は十分にあり,最近ではマラソン等を夏季に行う際,日射病の予防に使われているが,どの程度理解して使っているのかわからない.
この計器は早速わが国にも輸入され,一方,錺屋が腕を振るって模造品を作ったが,直径が6インチなのはなぜなのかわからず,論議が交わされた.結局,御本人に照会したところ,何と水洗便所の貯水槽(天井に近いところにとりつけられている)の止水弁を働かすための浮子であって,当時の英国で最も大量に使われたもので,外側につや消しの黒色塗料を塗ったという.ただ身近のありあわせの物を利用したに過ぎないことがわかった.
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