衛生公衆衛生学史こぼれ話
24.修道尼の職業病
北 博正
1
1東京都環境科学研究所
pp.229
発行日 1986年4月15日
Published Date 1986/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401207237
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修道尼とはカトリックの尼さんで,日夜,祈りをささげ,規則正しい生活をして,精神が安定している彼女たちに職業病があるとは不思議なことであるが,有名なラマチーニ(Bernardino Ramazzini)の"働く人々の病気"(De morbis artificum diatriba 1700初版)という労働医学の名著の中に登場して来る.産業革命前の手工業(manufacture)時代にも,職業に応じて,その従業者にだけに発生する疾病や,一般人に比べて多発する疾病が職業病といわれているが,尼さんたちの職業病とは何か? 彼によると晩年になって乳癌が,他の女性に比べて多発するという.彼女たちは一生を通じて独身を守るため,修道院の院長とか高齢の尼さんに乳癌が発生するというわけで,このことは独身で通したり子供を産んだことのない女性--女教師や看護婦長など,かつては独身を通すことの多かった女性にも--現れるわけである.
このことは現在でも,独身女性に乳癌が多く,経産婦とくに多産婦に子宮癌が多いという事実と一致する.これは内分泌と密接な関係があり,ホルモン療法が用いられるのはご存じのとおり.
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