特集 公衆保建モラル
民族・文化と保健行動
辻 達彦
1
Tatsuhiko TSUJI
1
1群馬大学公衆衛生学
pp.232-236
発行日 1980年4月15日
Published Date 1980/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401206054
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■はじめに
現在の日本人の保健行動がいかなる由来によるものかを反省し,検討するのが,本論文のねらいである.もとより,保健行動という考え方も新しいので,歴史的にさかのぼって考察する場合,類似の行動あるいは行為から推量するほかはなさそうである.とくに明治以前は,科学の未発達の社会環境下にあったことを終始念頭に置く必要がある.例えば「伝染」というコトバを取ってみても,微生物の役割を知らぬ昔と今とでは受け取り方が違うことである.近代国家として成立した明治以降とそれ以前とでは教育の普及状況からみても格段の差があり,健康とか病気とかに対する庶民の意識や態度には士農工商という身分制度の影響も無視できないものがある.
いわゆる礼儀作法のように不文律となっているもののほかに,病気を含む生命の危機に対処する行動がいかにして育成され,日本人の深奥に定着していったのか極めて興味があるが,考察があくまで断片的な資料からの仮説的論証であることを覚悟してかかるべきであろう.
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