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日本民族と隔離分娩の風習
小林 茂雄
pp.68-71
発行日 1956年1月1日
Published Date 1956/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200992
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古来わが国の民族の間には,月経期の女性や産婦を別室や他の家屋に隔離して之れと接触することを避けた風習が行われていた.しかし近代に至つて,此のような風習は殆んど湮滅してしまつたが,之れに代る所謂産小屋の風習は,今日に至つてもなお北越の海岸地方の一部に残つている.日本民族が清潔をとうとび,血液を汚視するという思想や慣習が,此のような風習を生んだとは,従来から一般に唱えられる見方もあるが,しかし私は此のような見方に追随することが出来ない.これには,他に特別な原因事情があつて,それに潚源する一種の民俗であろうと思われる点があるから,平素の所見を記述して,大方の指教を仰ぎたいと思う.
日本民族が,太古以来清潔を好むという風習のあることは,気候が一般に温暖で,空気が湿気に富んでいるために,川や海に浴したり,或いは沐湯に入つて,全身を洗滌するという慣習が然らしめたものである.神代更にイザナギの命が,黄泉の国に行つたがために,その身の汚れたのを盪滌すべく,筑紫の日向の小戸という海水に浸つたことがあるとあるのは,川や海に浴して全身を洗滌した風習が,神話に反映したもので,所謂,身滌(みそぎ)の式なるものは,這般の習俗から起つたものであると私は解釈する.身滌を一種の祓除といい.神道にいう祓除式が川原で行われたのは,河や海に浴して身の汚穢れを洗うという風習に由来するものである.
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