特集 食品衛生行政
食品の化学物質による汚染—食品中残留農薬を中心として
上田 雅彦
1
1高知県衛生研究所
pp.397-403
発行日 1977年6月15日
Published Date 1977/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401205397
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに—食中毒と食品公害と—
昭和44年は,わが国の食品衛生行政にとって,ある意味で銘記すべき年であったと筆者は思っている.この年の3月から9月まで朝日新聞は「食品公害を考える」シリーズ1)を連載した.このシリーズは,食品の化学物質による汚染問題について十分なキャンペーンの役目を果たし,ようやく豊かさの満ちた市井の食品の安全性問題に一般の目を開かせる端緒になって,"食品公害"という言葉を生んだ.
その直後から,表1にみるように食品の汚染問題は次々と表面化し,食品衛生行政の重要なテーマの一つとなる.食品の化学物質による汚染事故は食品衛生行政の上では食中毒と称されるが,食中毒の大半が細菌性であるという統計が示すように,一般には食中毒と言えば一過性のいわゆる"食あたり"という受け取り方が強く,生命に危害を及ぼすという感じは薄い.これに反しヒ素ミルク中毒,水俣病,油症などの化学物質による食中毒事故は,食べる側がいかに注意しても,その食品に毒物が含まれているかどうかの判別は極めて困難なばかりでなく,一度毒性が発現すればほとんど治療法はなく,患者に精神的にも肉体的にも厳しい環境を強いる場合が多い.こういう事例が単なる"食あたり"ではすまされなくて,"食品公害"という,私たちの健康に抜き難い影響を与える厳しい表現を生んだと思われる.
Copyright © 1977, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.