特集 地区診断を診断する
論叢
地区診断の効用と限界
調査技術のみの地区診断では正しい把握は無理
橋本 正己
1
1国立公衆衛生院衛生行政学部
pp.257-258
発行日 1966年5月15日
Published Date 1966/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203242
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日本の公衆衛生の分野で,地区診断ということが具体的にとりあげられるようになったのは,ちようど今から10年位まえである。その直接の契機となったのは,埼玉県千代田村(現在の羽生市千代田地区)など一定の地域社会を対象とする公衆衛生の研究者と,社会学,教育学など行動科学の研究者による一連の継続的な共同研究であり,公衆衛生活動の行動科学的技術の積極的な導入という意図から生み相されたものであった。また,当時の時代的背景としては,戦後の新しい保健所活動と,これに呼応する環境衛生分野などにおける地区組織活動が,かなりの成果を収めながらも1952年の講和発効の後,被占領時代から自主独立への過渡的な時期において,単にそれまでの公衆衛生活動合理化のためのいわば量的な管理的アプローチにあき足りず,公衆衛生活動における質の問題へのアプローチの必要性に直面していた事実も重要であろう。さらにその後しだいに顕著になった社会的経済的な変動の中で,前述の継続的な共同研究の結果が着実に積み重ねられ,これが今日いうところの地区診断として実用化されるようになったのは,保健所の型別再編成や国民皆保険の達成を契機として,いわゆる共同保健計画の推進が厚生省によって唱導されるようになった1960年以降のことであるといえる。
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