特集 地区診断を診断する
論叢
地区診断の効用と限界
ちみつな診察の上にたって
水野 宏
1
1名古屋大学医学部公衆衛生学教室
pp.255-257
発行日 1966年5月15日
Published Date 1966/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401203241
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地区診断――わたくしは必ず地区保健診断とよぶことにしているが――がどれだけ効用があり,どの辺に限界があるかは,いうまでもなく診断をする人,あるいはグループの診断能力にかかわる問題である。地区保健診断の方法論の面では研究の歴史が浅い関係で,われわれの蓄積は未だ乏しく,そちらからの制約にすぐにつきあたるのがいつわらざる現状である。
しかしながら地区保健診断に比べてはるかに長い歴史をもつ臨床の診断でも,常に進歩をつづけているとはいいながら,方法論からいえばどこまでいっても常に限界にあるわけで,その限界を絶えず破ろうとする意欲が臨床医学における研究の進歩の1つの原動力であろうし,現存する限界を補なうためには,常に新しい知識を蓄積し経験を積む努力を重ねつづけることが必要であろう。われわれもまた常に新しく方法論を開発する努力を怠らないだけでなく,常に経験を積み,勘を養うということが,たいへん非科学的な逆行的ないい方に聞えるかも知れないが――現段階においては,誤りの少ない診断をするために必要な条件のように思われる。経験を積むといっても,長年保健所に勤務していればよいというようなことではない。現在の保健所はおかしなところで,保健所が責任を負っているはずの患者--地域社会――についてはアナムネーゼもとらず診察もせず,病理検査もしない前に,とっくに処方が出されていてその処方に従って仕事をすることになっている。
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