特集 社会医学(第3回社会医学研究会講演)
一般演題
周産期死亡の社会的背景—長崎市における実態調査よりの一考察
原田 圭八郎
1
1長崎大学医学部公衆衛生学教室
pp.610-612
発行日 1962年11月15日
Published Date 1962/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202586
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
戦後わが国の乳児死亡率の低下は周知のように実にめざましく,一方新生児死亡率のみについても乳児死亡率同様の驚異的な減少を続けている。しかし,自然死産率の動きをみると戦後年々上昇しており,近年では新生児死亡の著減と自然死産の異常増加といった衛生統計上奇妙な現象が認められる(第1図)。
すなわち,新生児死亡も(自然)死産も共に出産前の要因に大きく影響されるという生物学約な特性から考えると納得しがたい現象である。そこでこの間の事情を更に明確にするために,晩期死産と,早期新生児死亡(但し戦前については生後10日未満をとった)とを合わせたいわゆる周産期死亡の動向をみる必要がある。周産期死亡率は戦前には新生児死亡とほぼ同じ傾向で減少し,今次大戦中にも(資料がないため即断できないが)戦前と同様に低下していたと思われる。ところが,戦後では僅かな減少しかなく,現在出産千対40以上の値で停滞している。これは近年のスウェーデン,オランダなど欧米先進国の低い水準に比べると遙かに高く,なお改善の余地が相当あるものと思われる。この周産期死亡率の戦後における停滞から考えても,新生児死亡と自然死産とにみられる相矛盾した現象は,単に衛生統計上の問題としてだけでなく,社会医学的にも今後解決を要する問題のようである。
Copyright © 1962, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.