総説
公衆衛生最近の進歩—衛生動物
大鶴 正満
1
1新潟大学医学部医動物学教室
pp.348-352
発行日 1962年6月15日
Published Date 1962/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202536
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まえがき
戦後10数年にわたるわが国の公衆衛生の進歩発達には著しいものがあるが,その土台石である環境衛生の面では,欧米諸国に比べておおよそ半世紀の遅れがあるといわれている。その環境衛生推進の原動力として登場した「カ・ハエ駆除運動」の最近の躍進ぶりには,確かに眼を見張るものがある。昭和30年6月,閣議の了解によって打ち出されてすでに7年を経過し,しかもまったくわが国独自の形で依然として押し進められている事実は,近年のわが国公衆衛生の普及発展に寄与している点で特筆すべぎことと思う。しかしそこには決して手放しで楽観できない面があることも銘記しておかねばならないであろう。たとえば現在の代表的な福祉国家といわれる英国の近代公衆衛生の発達には,約100年の環境衛生を主とした背骨があり,戦後のわが国の動向とは,おのずからその基盤において大きな差異がみられる。
ここに取り上げる衛生動物の方面でも,やはり行政,実践,研究の各分野のアンバランス,底の浅さが痛感される。筆者は大学医学部において寄生虫衛生動物学の教育と研究にたずさわっている1人であるが,かかる教研の機関にあっても,斯学は必ずしもその立場が正当に評価され,運営されているとはいいきれない。しかし,ここにも,わが国公衆衛生の悩みに通じるものがあるようである。
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