総説
胃癌の成因とその周辺をめぐる問題
佐藤 徳郎
1
1国立公衆衛生院
pp.27-39
発行日 1962年1月15日
Published Date 1962/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202481
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いろいろの人癌の成因もいつかは解明される時が来ると考えられる,いつまでもわからぬだろうとか,基礎研究が完成した上でなければ手をつけられぬという気持の上にいつまでも安住できるだろうか。人癌の研究は主題の胃癌に限らず,思いのほか急速に進行していると考えられる。それは基礎研究の面では主流をなしていないかのように見受けられる人びとのたゆまぬ努力の結果と結びついていることが多い。それらの関係を解析しながら胃癌の問題をふりかえってみたい。
人の癌は地理病理学も教えるように,人間生活の場において捕えなければならぬものであって,その作用因子は限られた条件しか備えぬ固定した実験条件や,観念の外にはみ出ている可能性がある。また実験上動物にあてはまる発癌の条件が,人間にあてはまるか否か,問題視される場面もあり,整理を要する。かつてのコレラ,ペスト,結核その他の伝染病原菌の発見が示したように,原因がわかってしまえば,それまでの種々の学説は厳密な批判を受けることになるのは歴史的な必然である。研究者は絶えずこのことを念頭におき,自己の言動に反省を加えなければならない。また学説に止まらず,民衆の啓蒙に従事するときは特に慎重を要すると考えられる。
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