綜説
食品腐敗研究隨想
松村 䏋
1
1千葉大学腐敗研究所
pp.417-423
発行日 1961年8月15日
Published Date 1961/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202425
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ここに私の掲げた題目は,食品腐敗に関してであるが,そもそも私が本問題に手を染めた動機が,脚気の原因に関する研究で始まつたのである。脚気という病気は周知の通り栄養の部分的欠陥から発生するものと考えられている。しかし私はこの栄養失調によると思われている脚気が,疫学的考慮の上で一種の伝染病であり,しかしその病原体は腸内に寄生増殖し毒性を発揮するものであろうとの強い疑いをもつのである。脚気病の疫学上の諸条件を解明し,その病理解説を満足に解決するには,どうしてもこの根拠より出発せねばならぬと固く信ずるのである。食品衛生学上,脚気問題が重要である限り,その病因に関する事項に触れることは,必ずしも無駄なことではないと思われる。そして,脚気腸内菌叢の研究に関連して私どもの食品腐敗研究が実験遂行せられた次第である。左様なわけで,はなはだ回り路とも見えるが私は最初に先ず脚気問題に触れることにしたい。
大正の初頭頃と思うが,その当時東大入沢内科で,脚気の栄養学的研究が大規模に行なわれたことがある。昔から脚気は白米食に随伴する特異な疾患であると考えられ,これに米糠を補充することによつてその発病並に症状の経過を軽減することが出来ると伝えられていた。入沢内科においてはこの米糠成分の補給がどの程度脚気治療に有効であるかを突つこんで観察攻究せられたようである。
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