綜説
大気汚染の人体に及ぼす影響とその研究方法
鈴木 武夫
1
1国立公衆衛生院労働衛生部
pp.137-144
発行日 1960年3月15日
Published Date 1960/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202253
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I.はしがき
大気汚染の問題が都市衛生の発展として,我国で一般に広く公衆衛生の部門に取上げられてから数年を経過し,各地方自治団体において調査,研究が進められる傾向が現われ,国における大気汚染対策の必要性が世論として強く主張される様になつてきた。この時にあたり,公衆衛生的対策樹立の必要性を認めつつ,その大気汚染予防方法の実践を効果的に遂行するのをさまたげている一つの理由として,大気汚染の公衆への影響,特に健康──人体への影響についての知識が不充分な事があげられている。又大気汚染対策の遷延のための理由づけの方便として影響,殊に人体の影響の成績不足が利用されている.公害という言葉が英法におけるPublic Nuisanceの事をさすとすれば,この様に健康への害の有無によつて対策の必要性の程度が決定されるという事は遺憾なことであるけれども,現実にはNuisanceという概念が未だ存在していない我国では大気汚染の人体に及ぼす影響,殊に疾病の有無は行政的対策の推進の程度を決定しているといつてよい。
1273年にすでにLondonでの石炭使用の禁止の法律を通過せしめた英国では1661年にJohnEvelyn1)によつて最初の大気汚染の害を述べた"Fumifugium or the Smoake of LondonDissipated"が発表されたという。
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