特集 健康の疫学
生理学の立場から—公衆衛生における生理学の新展開
田多井 吉之介
1
1国立公衆衛生院生理衛生学部
pp.247-253
発行日 1958年5月15日
Published Date 1958/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201962
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はじめに
公衆衛生の分野における生理学の貢献は決していまに始まつたことではない。環境との結びつきにおいて人体生理を理解するために,環境生理学(environmental physiology)あるいは生理衛生学(physiological hygiene)という1分科が派生したのも,そう最近のことではない1)。しかしながら,初期におけるこの分野の貢献は,決して公衆衛生全般に対する普遍化されたものではなく,むしろ特殊な集団についてのみおこなわれたようである。たとえば,労働人口の疲労を軽減し,生産力を維持し,災害や潜在的な中毒を防止し,また発育期にある青少年の体位を向上させ人的な戦力を増強するなどの目標をもつて発展した。そうして,労働人口への大きな寄与が認められ,とくに同分野の研究と実践が度を高めたため労働衛生学の中へ入りこんだ生理学は,第2の分化による労働生理学を産むにいたつた。このように,広い公衆衛生の一部にあつての生理学の貢献は小さくなかつたが,しかし,これらはすべて過去に始まつた一連の出来事である。18世紀の産業革命につれて病気の様相がかわりはじめたが,19世紀から20世紀の前半にかけて,多くの社会は依然伝染病の多発に悩まされ,その対策に重点がおかれた。しかしながら,最近のペニシリンをはじめとする多数の有力な抗生物質の出現によつて,公衆衛生の分野には声なき革命がおとずれた。
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