原著
結核患者退院後の実態調査
田中 正好
1
1和歌山県衛生部予防課
pp.46-49
発行日 1956年10月15日
Published Date 1956/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201739
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〔I〕
今,吾国の結核対策は一つの転機に立つていると考えられる。一方では昭和28年度より厚生省において行われている。実態調査による結核患者の正しい把握と,最近の化学療法を主軸とした結核治療の進歩による結核療養の本態の変化があり,他方では昭和29年度に57億円と云う未曾有の赤字を出した健康保険経済の底に横わる結核療養費の問題と,最近しばしば伝えられる結核療養所における空床を将来している療養経済の限界の問題がある。いつの時代においても患者達は日々の生の生活の中で,疾病と戦い,その多くは更に生活苦に追われ二重の責苦にあえいでいるのが実状である。即ち,結核はその患者の経済生活を破壊して一家の貧困の原因となり,その貧困は再び次の結核を誘発する悪循環をくり返しているのであつて,この悪循環を断ち,新しい結核の実態に立脚した対策を今こそ用意しなければならないのである。
実態調査の結果によると,吾国には現在137万人の入院を要する結核患者がいると言われる。それに対する結核病床の数は僅かに20万床にすぎない。従つてこれら多くの結核患者の中にあつて,とも角も一度び入院生活を送り得た患者は,選ばれた人達であり,最も恵まれた療養生活をなし得たと言うことが出来る。しかしそれらの患者もこれをつぶさに観察し如何にして退院してゆき,退院後は何の様な生活を送つているかを見れば,ここでもきびしい吾国の国民生活の縮図を覗うことが出来る。
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