特集 医療制度とその盲点(Ⅱ)
疾病と社會—農村社会と保健活動の問題
松原 治郞
1
1東京大学文学部社会学研究室
pp.35-40
発行日 1955年4月15日
Published Date 1955/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201549
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〔1〕
「かぜでやすよ。かぜをこじらしたんでやすからな。……何もそんな……」
おつかさんは,はつきりと反対の意見をいつた。そして,あとは,おしのようにだまつてしまつた。レントゲンという言葉がはげしいシヨツクを,彼女に与えたらしかつた。--もし,おとつつあんが肺病だつたら,どうしよう。隣近所の人たちと,つきあいもできなくなるし,だいいち主屋(おやじ)のねえさんが,何といいだすか。おとつつあんはくびになるだろうし,これからいつたいどうやつて,暮しをたてて行くのか。……いつたい,こんなことになるのも,この保健婦のやつがいけないんだ。いきなり,風のように舞い込んできて,うちの人を,肺病よばわりする。とんでもないさいなんだ。ひとのうちのことは,ほつといてくんろ。よけいなおせつかいだ。(若月俊一氏「健康な村」より)
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