社会の動向
ペニシリンと新興宗教
長谷川 泉
pp.70-72
発行日 1956年10月1日
Published Date 1956/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201145
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東大尾高朝雄教授のペニシリン・シヨツク死以来,ペニシリンに対する社会的関心は,極端な過敏症状になつてしまつたようだ.ジヤーナリズムには数日おきくらいにペニシリン・シヨツク死の記事が掲載されるし,はては波紋はストマイにまで及んで,ストマイ・シヨツク死まで報ぜられるようになつた.これでは難聴どころのさわぎではない.今やペニシリン製造業者は,ペニシリンの滞貨をかかえて青息吐息という有様だという.操短のうえ,製造業者から問屋には若干の製品が流れても,問屋から小売業者には全然動かないということになつては,このままでは万能薬ペニシリンが,殺人剤にかわつたばかりでなく,はてはペニシリン業者達まで殺すにいたるであろう。
そればかりではない.近頃では新興宗教のなかで,ペニシリン注射などするから死ぬんで,病気はわが宗教で治るとばかり,ここを先途と宣伝を開始したものもあるという.まことに,ペニシリン・シヨツクの死者にとつては浮ばれない話である.新興宗教なるものの抜け目のなさにも唖然とするが,おくれた社会においては,実際このような言いぐさが大きな影響力を持つことを思えば,寒心にたえないことがらである.
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