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牛乳の處理問題
兒玉 威
1
1神奈川県衛生研究所
pp.27-31
発行日 1955年2月15日
Published Date 1955/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201528
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もめる牛乳の処理問題
近年牛乳の生産量は急速な上昇を示し,本年は恐らく戦前の2倍近い生産を示すだろうといわれている。牛乳は今や国民の食生活中の重要部門を占め,食生活改善上欠くことのできない食品となつたが,意外にも需要の拡大は増産に伴わず,乳価の暴落は酪農の危機を招いている。然るに若し,動物性蛋白質の摂取量の少いわが国の農山村において,身近な生産物である牛乳が一般に飲用されるようになれば,消費の拡大のみでなく,白米過食の惡習も自ら矯正され,栄養の欠陥も補われて正に一石二鳥の策であるといつてよい。ここにおいて酪農団体はその保護対策の一つとして高温殺菌の認可を厚生省に迫り国会に陳情して省令の改正を要望している。これに対し市乳の処理業者団体は非衞生な高温殺菌を認めることは時代錯誤だと反対し,更に酪農振興を図つた農林省低温殺菌を奨励した厚生省や市乳の価格引下げを要望する消費者の立場も加わつて,兩派の利害対立し,牛乳の高温処理問題は今や深刻な政治問題化しようとしている。
現行の省令では低温殺菌を原則とし,例外的に高温殺菌を認め得る立前をとつているが,実際問題として都市においては牛乳の消費量も多く,低温殺菌の大規模な処理施設を設けて処理を行う方が衞生的であるばかりでなく,却て能率的であり経済的であつて,特に高温処理の有利な点は認められないというのが多くの専門家の意見のようである。
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