時評
牛乳殺菌問題
豐川 行平
pp.20
発行日 1952年1月15日
Published Date 1952/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200982
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朝令暮改ということほどだらしのないことはないが,最近その典型的な例があつた。それは所謂牛乳事件である。
ことの起りは昭和26年5月に厚生省が乳,乳製品及び類似乳製品の成分規格等に關する省令の一部を改正したことに始まるのである。つまり從來は市乳等の處理方法は高温殺菌と低温殺菌の二本建てであつたのを,低温殺菌一本にし,62℃〜65℃30分又は75℃以上15分加熱し,殺菌後1時間以内に10℃以下に冷却保存することを命じたのである。榮養學者は常に加熱により牛乳の榮養價が害なわれていることをなげいていたのであるから,高温殺菌を低温殺菌にすることには何等問題はないと考えて省令改正をしたのは,いささか輕率だつたといえよう。反對の火の手は先ず業者からあがつたのである。彼等にいわすれば,高温殺菌から低温殺菌に切り換えるには大變な費用がかかる。大規模の業者なら實施できるかもしれないが,小規模の業者は借金するか永年の家業を放棄するか,何れかであり,我々を路頭に迷すものだというのである。小企業者の多い業者だけに,この反對は至極もつともである。一方,農林省も,牛乳などの生産はわが省の管轄であるのは一言の挨拶もなくこんな惡法をつくるとは何ごとだというわけで,いきり立ち遂に,7月の臨時國會で議員からつるし上げに會い,厚生省も餘程困つたようである。
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