特集 医療制度とその盲点(Ⅰ)
わが国における医療制度の主要な問題点とその考察
橋本 寿三男
1
1厚生省医務局医務課
pp.1-5
発行日 1955年1月15日
Published Date 1955/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201507
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1.まえがき
明治初年独乙医学が採用されてから封建時代の漢方医学や蘭方医学を圧倒し,現在の医療制度を独乙的な色彩で塗りつぶした。その基盤の上に敗戦と共に米軍の占領行政によつてアメリカ医学やアメリカ的な制度が次々とたてられた。今日なお徳川時代の残渣のあるなかに独乙的なものが主流をなし,新にアメリカ的な制度が根を張ろうとしている。これがわが国の医療制度の現状というべきであろう。巷には徳川時代そのままの街医者がいるかと思われ,大学の附属病院は19世紀の独乙の大学病院そのままであるかと疑わせられ,反対に全くアメリカ式な病院経営の病院があつて,新しいインターン制度を活用しているところが増えつつある。この複雑な要素を消化して,わが国に適しい制度を作りあげるためには少なからぬ勇気を必要とするであろう。
社会を病苦から救うことを目的として医療が行われる。医療を行う場所は医療機関であり,医療を行う者は医師,歯科医師,看護婦等の医療従事者である。医療機関は一つの社会機関であり社会自体の機構に,支配される医療従事者の身分等についても同様に社会が疾病やその医療を如何に考えるかによつて決定される部分が多い。わが国に適しい医療制度を考える場合には,やはりわが国の現実を無視することはできない。医療制度も一般社会の進展と共に進展するものだからである。唯,社会の進展に最も優先すべきものとする考え方が諸外国でも既に採用されていると考えてよいであろう。
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