特集 最近の栄養問題
論説
食生活改善運動に望む
船田 文子
pp.2
発行日 1953年10月15日
Published Date 1953/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401201266
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昔から“しやもじを渡す”という言葉があるのを見ても分る通り,家庭内の主婦の第1の役目がその家族の食事の世話である。姑のすることを見習つて,手伝つている間は,自分の生家の風習と比較したりしてかなり批判的な嫁も,数年間の習慣の中に,いっか夫やその肉親の嗜好に溶け込んでしまつて,さて自分が息子の嫁にしやもじを渡す頃ともなれば,そうでなければならぬかのようにして毎日の習慣を守り抜こうとする。一面から見ればこのようにして日本の家族制度の美風は守られて来たのではあるが,その反面生活の改善はなかなか行われなかつたのであろう。
人は習慣の力ほど恐しいものはないと思う。ことに食事については,それが本能の問題であり日に3度繰り返すことなので,一寸やそつと理論や奨励に攻められても容易に受付けるものではない。食生活改善の攻め道具はたつた2つしかないと思う。その1つは美味しいということ,第2は安価に手に入るということだと思う。もしそれが富裕な人達相手の場合は,おいしいということ唯1つである。調理の簡単なことも大きな魅力ではあるが如何に手がかからなくとも,高価では普及しないし,味が悪くては何とも致し方ない。
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