綜説
水の衞生細菌學
八田 貞義
1,2
1厚生省東京衞生試驗所細菌部
2日本醫科大學衞生學
pp.129-142
発行日 1948年7月25日
Published Date 1948/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200313
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1.前書き
水の人間生活に於ける重要性に關しては,今さらギリシヤの哲學者Thalesの「世界の根源は水なり」といつた言葉を引用して強調するまでもあるまいが,世の人々はその恩惠が餘りにも身近にあるためか左程に關心を示していないというのが實相である。良質な水質に惠まれた時代はそれでもよかろうが,人口の都市集中とか,工業都市の出現そして下水道の不備とかによつて,水源は汚染され,水質は甚しく低落して來るものである。
水質への衞生學的關心の低下は,すでにわが國に於て川崎,大牟田,長崎等の諸都市に榮譽にもならない水道流行の勃發を招き,水道衞生學上に汚點を點じたが,それでもなお簡易水道や工業用水,個人井戸等による水系傳染病流行の跡をたゝない。「國破れて山河あり」ではなく「國破れて人民あり」で,この人民を保健衞生上恙がなく保命させるためには,結核問題に關心を示すのもよかろうが,結核對策に腐心する餘り,水や食品の衞生管理の如き一見平凡な公衆衞生對策を忘却するようなことがあつてはなるまい。
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