總説
勞働衞生と産業復興
勝木 新次
1
1勞働科學研究所
pp.285-289
発行日 1948年4月25日
Published Date 1948/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401200276
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最近私の同僚はある被鉛電線工場從業員の鉛中毒に就いて調査を行つた。同工場の勞働組合が有害作業であることを理由として特別の手當支給を要求し,工場側と勞組側とでこの作業の有害度について見解を異にしたため,問題を科學的な調査の結果に基いて解決するため私共の方へ調査を依頼して來たのである。調査の結果を要約すると,この工場で鉛が粉塵として發散するのは主として熔融釜の酸化鉛であり,ここでは鉛蒸氣の發生も考慮せられる。他の部署の鉛塵は特に問題とするほどでなく,全體として工場内の空氣中鉛量は恕限度以下と思われる。勞働者について詳細な檢査を行つた結果では,蒼白,鉛縁,ポルフイリン尿を示すものはなかつたが,鹽基性顆粒赤血球を示すものが52名中6名あり,血中鉛量が鉛中毒者と認むべき量即ち100cc中60γ以上の者が27名中4名あつた。彼等のうち自覺的に神經症状を訴えるものが相當あつたが血中鉛量の相關は明らかでなかつた。その他の所見については省略する。要するにこの工場には著明な鉛中毒は見られないが,鉛の害作用は明らかに認められ,それは鉛塵の發散の多い部署ほど明らかで,直接鉛を取扱はない作業部署でも鉛塵の流れ漂つて來ると思われるところでは矢張勞働者の血中鉛量は正常値より高かつたのである。
此の工場でかような結果を來してゐる原因としては,勿論第一に鉛塵の發散防止乃至除去が不充分というよりも全然考えられてゐない状態にあることを擧げねばならない。
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