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はじめに
「国際的に大気汚染がいま熱い」と言っては言いすぎであろうか.2000年代末における東アジア(北東アジアおよび東南アジア)におけるNOx(窒素酸化物)およびCO2(二酸化炭素)の排出量は,欧州および北米をはるかに凌駕してそれぞれ全世界の30%を越え,この地域は世界的に見て大陸規模で最も大気汚染物質の排出量の多い地域となっている.これに南アジア,西アジア(中東)を加えたアジア全体の排出量は,NOxで約40%,CO2では45%に達している.
このことが最近の中国における激甚な大気汚染や,わが国に対する越境大気汚染の増大をもたらしている根本原因であると同時に,急速に増え続けている東アジアからの大気汚染物質の排出削減に,半球大気汚染の観点から欧米を含めた全世界からの注目が集まっている由縁である.特に北東アジアにおける越境輸送を含む大気環境管理は,環境問題をテコに昨今の日中韓の政治的対立を乗り越える国際協力のパイプを,いかにして築くかといった国際政治とも深く絡んだ問題となっている.本稿ではこうした側面を横目で眺めながら,まずPM2.5とオゾンの越境大気汚染問題をみてみよう.
他方,大気汚染と気候変動はこれまで一部の科学的研究を除いて別問題として取り扱われ,対策・政策面でもほぼ独立に取り扱われてきた.しかるに,現在顕在化している温暖化に伴う極端気象などの気候変動を中期未来までに多少なりとも緩和しようとするならば,後に述べるようにブラックカーボン(black carbon;BC)や対流圏オゾン(O3)のような,温暖化を促進する寿命の短い大気汚染物質の大気濃度を下げる以外に手立てがない.このような考えから米国政府は2012年に「短寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化のコアリション(Climate and Clean Air Coalition;CCAC)」を提起し,わが国も政府としてこれに加わった.本稿では,第2のテーマとして大気汚染・気候変動コベネフィットアプローチについて東アジアの立場から考察する.
このように大気汚染をキーワードとした動きが,国際的にも大きく浮上してきており,東アジア大気汚染がわが国でも国際問題として熱くなっているのである.
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