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はじめに:自殺企図患者搬送と救急医療の現状
自殺による死亡が連続して年間3万人を切る状況となっても,自殺未遂者はその複雑な背景や精神科関連の既往歴,あらゆる薬物や毒物の過量摂取による影響が予見できないこと,飛び降りや飛び込みなど高度な身体的治療を要する自殺企図の手段とその後の集中治療の困難さから,救急隊は一般救急病院への自殺企図患者の搬送をあきらめ,軽症~重症を問わず救命救急センターを中心とした身体科三次救急医療機関への搬送に依存している.その結果,救命救急センターが身体的に軽症の自殺企図患者の初療にまで対応することとなり,ベッド状況の逼迫化とともに本来の業務への支障をきたす状況に陥っている.
自殺企図患者では身体的問題以外に,自殺企図に至った原因の排除や,現在の精神症状の評価と治療,来院後の希死念慮の変遷など精神科的なアプローチやケアが必要なことは言うまでもない.ところが,搬送されてきた自殺未遂者の精神科的側面への対応について,身体科救急を担う医療スタッフで“正しく”ケアできるよう教育や研修を受けたものはほとんどいないのが実情である.しかしそれとはお構いなしに,平日夜間,週末,盆,正月など精神科医がいない状況で,同じような患者が次々搬送されベッドは埋まる.矛先は,かかりつけの精神科医や,いつまでたってもまともに機能しない精神科救急医療システムに向かうことになる.かかりつけ精神科クリニックでの大量の内服薬処方を原因の1つとしてこれを責める意見や,軽症患者は時間外でもかかりつけクリニックへの救急搬送あるいはコンサルテーションを求める意見も出されている.自治体の設定した夜間の精神科救急担当医療機関に電話しても,当直医は身体的な問題が解決しない限り患者の診察すらしてもらえないのが現実となっている.
回避できない自殺も多々ある中,精神病的な自殺やうつ病による自殺は精神科的な対処によって予防可能な症例もある.そのため一命を取り留め自殺未遂となった場合には,自殺完遂の最大の危険因子といわれる再企図を予防することが自殺死亡者数を減らすうえでのポイントとなる.そしてその答えは自殺企図者が最初に担ぎ込まれる救急医療機関の中にある.
搬送された救急医療機関において,まずは身体的な治療を行い,これと並行して精神科医のいない状況においても可能な限り標準的な自殺未遂者への精神科的ケアを施すことが,後々の精神科でのフォローアップに際しても有効である.しかし,救急の現場で使える自殺企図者へのケアを行うために欠如している問題が多く存在している.主な問題点を表1に示す.
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