連載 講座/健康で持続的な働き甲斐のある労働へ―新しい仕組みをつくろう・24【最終回】
日本学術会議の提言が新しい労働雇用・労働安全衛生システムへと転換するために:改革の方向性・最近2年間の動き・その論点
岸(金堂) 玲子
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1北海道大学環境健康科学研究教育センター
pp.197-203
発行日 2014年3月15日
Published Date 2014/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102972
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はじめに
わが国は労働安全衛生法のもとで40年間の優れた実践があるが,一方で「過労自殺・過労死」のような根本的な問題が解決できていない.長時間労働や女性労働者の地位が低いなど,歴史的に形成された日本に特徴的な課題も多い1).加えて最近注目を浴びた「印刷職場の胆管がん」問題に集約される化学物質管理や,中小零細企業の労働安全衛生の課題もある2).
日本学術会議は約84万人いる日本の科学者を代表する組織であるが,そこで2011年に,日本学術会議の歴史の中で初めて,今後の労働雇用システムと労働安全衛生(Occupational Safety and Health;OSH)のための提言を出すことができた3).提言は,広く国民(特に当事者である労働者や企業経営者),厚生労働省をはじめとする行政や,政治家,労働雇用にかかわる学会・専門家などに向けて発出されたものである.
本講座もいよいよ24回を迎え最終章になった.これまでの各章では日本学術会議提言を踏まえ各テーマごとに多様な専門家が職場環境の改善や関連の社会システム改革の方向性を示した.しかし,この間,2度の政権交代で,政治が大きくゆれ動いている.その中でどうしたらILO(国際労働機関)の“decent work for all”(換言すれば,“働く人およびその家族,皆が人間らしく健康で安全に働き,安寧に生きる社会”)に近づくことができるだろうか? 日本の明るい未来のために最終稿の本稿では,できるだけ建設的に,かつ実効性のある改革の方向性や論点を示したい.
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