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はじめに
出生前に胎児の異常を診断する方法には,妊娠成立後に胎児・胎盤組織である絨毛の一部や羊水に浮遊する細胞の染色体を調べる,超音波断層法などで画像診断するなどの「出生前診断」と,生殖補助医療(assisted reproductive technology;ART)を前提として体外培養中の初期胚成分を材料に遺伝子診断する「着床前診断」がある.広義には「着床前診断」は「出生前診断」に含まれると思われるが,一般的には妊娠してから検査する「出生前診断」に対して,妊娠成立前の胚の段階で検査する「着床前診断」は区別して考えられている.
近年の若年女性では初婚年齢の平均は30歳を超えるようになり,それにつれて妊娠・出産年齢が高齢化している.女性の年齢の上昇は,当然,卵子の老化につながるので,女性の妊娠年齢の上昇により児の染色体異常の発生頻度は増す.並行して少子化傾向は変わらないので,元気な子を産みたいと希望するカップルやその家族もまた増加傾向にある.そのため,出生前に胎児の異常の有無の検査を希望するカップルもまた増加している.
一方,卵子の老化は妊娠率の有意な低下や流産の増加をきたすので,不妊症が増え,特に難治性不妊が増える原因になる.また,頻回に流産を起こす不育症患者も増えている.この場合,ARTを選択するカップルが増加するのみならず,遺伝子異常のチェックを経て問題のない胚を移植することで,ARTの妊娠率を向上させたり,流産を防止することが期待されるようになっている.
医療技術の進歩で画期的な検査方法が開発される一方で,生命の誕生や人間のあり方に関連した事項を含む出生前検査については,多様な倫理的問題が指摘され,多方面から賛否両論が報告されている.そこで,現在の出生前診断や着床前診断に関する倫理的な問題点を概説する.
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