- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
人と環境との関係を考えるとき,人が行動を起こすことによって周辺環境に影響を与えることもあれば,人を取り巻く環境によって行動が支配・影響されることもある.山本多喜司とS.ワップナーの編著「人生移行の発達心理学」1)によると,人間と環境の間のシステムを双方向の関係でとらえる相互交流主義(transactionalism)においては,人間を「身体・生物的側面」,「心理的側面」,「社会文化的側面」の3つの側面から捉えるとともに,もう一方の環境を「物理的側面」,「対人的側面」,「社会文化的側面」のやはり3つの側面から捉えて整理している.
医療安全においても,インシデントやアクシデントを分析し,適切な対策を講じるためには,医療スタッフを「医療従事者や患者の健康状態や身体的な能力(身体・生物的側面)」,「どのような心理状態でその作業に望んでいたのか(心理的側面)」,「職種や役割としてどのようなことが求められていたのか(社会文化的側面)」といった側面で捉えることができる.またその時の環境を,「医療従事者の作業や患者の日常生活がどのような作業・生活環境の中で行われ営まれていたのか(物理的側面)」,「第三者を含めた人間関係はどのような状況であったのか(対人的側面)」,「医療行為の法的・社会的位置付けがどのようなものであったのか(社会文化的側面)」など多角的な視点からの分析が必要である.このようにさまざまな要因が絡み合って発生する医療事故を分析する際に,物的環境のみを取り上げることには本質的な限界があるが,ここではこれまであまり振り返られることの少なかった,医療施設内の適切な物的環境と医療安全について考えてみたい.
Copyright © 2013, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.