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はじめに
アルコール医療に従事する者にとっては,自殺はもちろん,アルコールがもたらす外傷,疾患,事故,犯罪等による患者の死は,「無念の死」である.
「精神科医の心の中にはいくつかの墓がある」と中井1)は患者の自殺に触れて述べている.特に,アルコール患者の「自殺」は私の心に非常に重く響き続けており,多くの墓となっている.
私はアルコール依存症と気分障害を重複した患者の入院中の自殺を幾つも体験したので,患者の入院中でも気が抜けなかった.
さらに退院後も,次の場合はとりわけ患者に注意を注ぐようにしていた.孤独と困難な現実生活にシラフで直面する退院直後の時期,再飲酒してしまい酩酊状態にある時期,家族の心を含めて多くのものを喪失した時期,治療者として患者に希望を提示し切れなくなった時期,こんな時には自殺のリスクが高いと経験的に考えていた.
このような体験を踏まえて,「死のトライアングル―アルコールとウツと自殺2)」について概説したリーフレット3,4)を作成したが,その作成中に,自殺予防のための内閣府による意見交換会5)が開催され,意見を述べる機会を与えられた.自殺予防総合対策センターの精神科医,全日本断酒連盟の役員と共に,アルコール依存症者の自殺の多さ,治療や自助グループが自殺予防に役立つことを懸命に伝えた.
内閣府担当官は死のトライアングルの重要性を理解し,以降,従来のうつ病中心の対策から,アルコール・薬物への対策も加わった自殺対策加速化プラン6)へと変化して来た.
一方,四日市市では一般病院,医師会,保健所,消防署,警察署,一般精神科病院,専門機関が連携して,自殺問題を含めたアルコール関連問題へのネットワーク活動を展開している.
これらは,全国どこにも普遍化できる取り組みであるので,本稿では,死のトライアングルについての文献考察を述べた後で,具体的な対応について述べていきたい.
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