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はじめに
まず,本特集のテーマである「アルコール関連問題」1)について触れてみたい.この「アルコール関連問題」は2つに大別される.
1つは,アルコールに直接関係する問題である.最近,最も注目を集めているのは飲酒運転であろう.それにドメスティック・バイオレンス(DV),さらには自殺と飲酒の関係が問題になっている.それに従来から医学的に取り組まれているアルコール起因の心身両面の健康問題である.
そして,もう1つのアルコール関連問題はと言うと,他の物質依存,行為依存,対人依存といった異なる依存対象,つまり薬物,ギャンブル,人間関係とのクロス・アディクション(複合依存)と,今後,大きな社会問題になると想定される「うつ病,強迫性障害,社交不安障害,人格障害」といったその他の精神科疾患との重複障害である.
本稿では,前者を「結果のアルコール関連問題」,後者を「素面(しらふ)のアルコール関連問題」と表現する.
1.「結果のアルコール関連問題」について
ここで言う「結果」とは,アルコール起因の①身体的障害,②精神的障害,③社会的障害のことである.
まず,①身体的障害だが,それは多彩であり,様々な診療科でその障害に応じて治療が行われる.しかし,その多くはしばらくの禁酒のみでも改善する.次に,②精神的障害であるが,これは精神保健福祉法による処遇が必要となり,概ね入院による医療と保護で,それも薬物療法が主になる.最後に③社会的障害であるが,飲酒運転に対する罰則の強化,飲酒による欠勤の繰り返しは各企業・各機関の就労規則に基づいての処分,そして,家庭の崩壊も家庭裁判所等の判定に委ねられることになる.
このように「結果のアルコール関連問題」ついては,その各々の障害に対して医療化,司法化されることによって,十全とまではいかないが,各々の障害に応じた対処と対策がなされ,そしてその対処と対策に関しては,関係者の間で周知,かつ実践されている.また,その効果に対しても国民の多くが関心を持ち,注目している,と言っていいだろう.
2.「素面(しらふ)のアルコール関連問題」について
素面(しらふ)とは,それこそ家族に言わせれば,「うちのお父ちゃんは,酒を飲まなかったら神様みたいな人なのだ」と.その「素面」はある種,問題でなく,才能として評価されてきた.よって,その対策と対処に関しては,ほとんどの司法・医療の専門家の間で関心を持たれていないのが現状である.いや,それどころか,現在の社会全体にこの素面の状態に対する理解は「一杯くらいなら…」と,概ね寛大である.
だがここで,私に与えられた執筆テーマ「アルコール依存症者に対する治療・回復支援体制の現状と課題」とは,この後者の「素面(しらふ)のアルコール関連問題」を軸に語らねば何の意味もない,と私は常日頃より考え,現場で実践を積み重ねてきた.これから記す内容が,現場職人の語り草にでもなれば幸いである.
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