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倹約遺伝子と生活習慣病~省エネ体質のエコ型人間ほどメタボになりやすい
飢餓との戦いに明け暮れた人類400万年の進化の歴史の中で,食べたものを少しでもたくさん体脂肪に変えて蓄えておけるという能力は,きわめてすぐれたサバイバル能力であり,進化の過程で自然淘汰を繰り返しながら,私たちのからだはエネルギー効率のよい体質(遺伝素因),すなわち「倹約遺伝子:thrifty genotype」を獲得したと考えられている.しかし,飢餓を乗り越えるために不可欠なこの遺伝子も,飢餓から解放されて飽食を謳歌する一部の民族においては,内臓脂肪の過剰蓄積を惹起し,メタボリックシンドロームを構成する生活習慣病の元凶になるという皮肉な現象が世界各地で起きている1).
その典型例は米国のピマ・インディアンである.この部族の祖先はモンゴル人であるが,中世期に二分され,一群は米国のアリゾナの平原に定着し,もう一群はメキシコの山間部に移住した.米国のピマ族は1970年頃までに保護区に入り,農業をやめ食事も欧米流になり,摂取エネルギーの約40%を超える大量の脂肪を毎日食べるようになった.この結果,成人の9割近くが肥満になり,35歳以上では2人に1人以上が糖尿病になってしまった.しかし,今でも先祖伝来の自給生活をしているメキシコのピマ族には糖尿病はほとんどおらず,米国のピマ族より体重も平均26kgも軽い.彼らが食事からとる脂肪の量は米国のピマ族の半分以下で,週に40時間以上の肉体労働を続けている.すなわち,同じ遺伝子を持つ集団でも,食事や運動を中心とした日常の生活習慣の違いにより,肥満や生活習慣病の発症に大きな差の出ることが確認されたのである.
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