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はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故は,重大な放射線汚染を引き起こし,国民全体を次々と大きな不安に陥れている.高線量汚染地域を中心に約10万人の住民が住み慣れた土地を追われて避難生活を送り,比較的低線量でも汚染地に留まった子どもたちとその家族は被ばくの不安に苛まれながら,プールや外遊びも自由にできない生活を強いられている.
事故当初から健康影響,特に発がん性については,日本疫学会,あるいは放射線医学総合研究所などがそれぞれホームページ(HP)で,「国民が低線量リスクをどう理解すべきか?」を示してきた.大震災の直後から科学者コミュニティの代表である日本学術会議は「東日本大震災対策委員会」を立ち上げて緊急集会を催し,矢継ぎ早に第1次から第7次までの「緊急提言」を公表した.放射線の健康影響については,福島県の学校の20mSv問題をめぐって,会長談話「放射線防護の対策を正しく理解するために」が6月17日発信され,議論を呼んだ.
一方,この間,福島以外のホットスポットの存在が次々に指摘され,飲料水,魚,茶,牛肉と次々に食の放射線汚染が報道される中で,市民からは放射線の健康影響の「不確かさ」への不安や,専門家や科学者の発する意見や助言の中立性に対しての疑義や,あるいは東京電力や経産省のもとにある原子力安全・保安院や内閣府原子力安全委員会など関係機関の機能や対応についても,大きな不満や怒りの声が出されている.
本稿では,現時点(8月22日現在)での原発事故による放射線被ばくと健康・安全に関わる科学的な論点を整理し,この間,専門家,科学者およびその組織の果たした役割を振り返る.
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