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公衆衛生の「現場知」「専門知」
中央集中型社会となり,地方や地域の現場が軽視される傾向が強まってきている.公衆衛生は,地域で生活する人々の健康問題に関わる活動であるので,このような状況は公衆衛生制度の危機と言える.公衆衛生制度の基盤は「現場知」にある.公衆衛生制度を大樹に例えると,地面深く伸びている太く長い根がなければ,大樹を支えられない.わが国の公衆衛生制度も,全国の隅々で行われている,保健所や自治体の仕事により支えられている.対人保健サービスの上では,全国のどの地域においても,地域を担当する保健師が配置されていることにより維持されていると言える.
公衆衛生が最も輝かしい時代であった19世紀は,疾病の原因は環境要因の占める割合が高く,汚染された給水,不適格で密集した住宅,栄養,職業要因,児童労働が大きな社会問題であった.これらの問題が人々の健康に極めて大きな影響を及ぼしていることは,誰の目にも明らかであった1).これら社会問題に対するためには,中央政府とは別に,現実に軸足を置く地方自治体制度を育てなければならなかった2).さらに現場で行っていることを調査し,その問題解決をはかるためには,専門職を地域に配置する体制づくりが必要となった.つまり,「現場知」と「専門知」の組み合わせにより,公衆衛生制度の形ができたと言える.公衆衛生の「専門知」とは,単に科学的であるというだけで成り立っているわけではない.公衆衛生制度ができた19世紀半ばの時代には,まだ微生物学などの医科学が確立されてはいなかった.チャドウィック,ナイチンゲールの時代はミアズマ説に基づき,清潔に保つこと,特に環境の衛生対策が疾病の制御に重要であることが「現場知」として認識されはじめた1,3,4).重要な点は,法律に基づいて決められたことを行うことから,現実の健康問題を分析し,その解決策を中心に考えて仕事をする専門職が一体となって,問題解決にあたるようになったことである.
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