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はじめに
わが国の憲法では第25条で,「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」ことと定められており,国の責任において「社会福祉,社会保障および公衆衛生の向上および増進に努めなければならない」と明記されています.
公衆衛生は,人間集団を対象として疾病の予防,健康保持・増進および福祉の向上を図り,各人が肉体的・精神的・社会的機能を適切に発揮させることであり,医学や獣医学だけでなく薬学,食物・栄養学などの自然科学,および社会科学などの多くの専門分野の協力によって支えられています.さらに,本公衆衛生概念を十分に理解して,複雑な環境要因や集団の生命現象を公衆衛生の観点から解析を行う生態学や疫学,および衛生統計学,衛生行政学,情報科学などとも関連することが求められています.
他方,公衆衛生の基盤となる公衆衛生学は,人が生活する上でかかわるさまざまな環境要因と健康との関連性を追及し,疫学予防,健康維持および増進などに役立てる総合的な科学であり,実践活動です.それゆえ,公衆衛生学は予防医学であり,食生活,住居,労働および自然環境などに因る疾病の一次予防,これらの早期発見,治療および予防などの二次予防,ならびに障害者および傷害を受けた人たちを身体的,社会的,経済的などの側面から回復を図るなどの三次予防であると言えます.これらのうち,獣医学は主に一次予防にかかわっており,人獣共通感染症(動物由来感染症)の監視および防疫,食品衛生,環境衛生,および化学物質(医薬・動物薬)の安全評価とその確保,動物介在療法などの分野においては,獣医公衆衛生学の知識や技術が大きな役割を果たしています.
世界保健機関/国際連合食糧農業機関(WHO/FAO)は,国際的な立場から獣医公衆衛生の役割について,基本的な分野として,1)人獣共通感染症(ズーノーシス):疾病の疫学,監視,防疫など,2)食品衛生:安全性の監視,指導と基準設定など,および3)公衆衛生に関する情報収集活動を挙げています.この他に,通常行うべきサービスとして,①環境衛生(人間環境に関わる有害・危険動物のモニター,および飼料,廃棄物の処分と再生)および,②生物製剤の基準設定などの衛生行政に関する職務,および試験検査と研究活動などを有すと述べています.特に今日,人獣共通感染症や食の安全と安心の問題など,獣医公衆衛生に関連する情勢は大きく変動してきており,社会的ニーズも著しく増加してきています.これに伴って,獣医学における獣医公衆衛生学教育の重要性は増大しています.
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