特集 超高齢社会に備える
超高齢社会に向けた医療制度改革の展望
池上 直己
1
1慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室
pp.276-280
発行日 2011年4月15日
Published Date 2011/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102075
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
高齢化の進展がなぜ医療保険制度に大きな影響を及ぼすのであろうか.図に示す通り,年齢が高まるにつれて一人当たりの医療費は次第に増えるので,民間保険であれば,それに合わせて保険料を高くする必要がある.だが,そうなると退職すれば所得は減るので,医療保険に加入できない高齢者が多数現れる.公的保険では,こうした事態を避けるために,現役世代が高齢者の医療費を負担しており,その結果,医療サービスの大半を使う高齢世代と,費用の大半を負担する現役世代との間に対立が生じる.
こうした対立は,日本の公的医療保険の構造によって一層激しくなっている.というのは,退職すれば被用者保険から国民健康保険(国保)に移るので,65歳以上の高齢者の占める割合は両者で著しく異なるからである.すなわち,後期高齢者医療制度が創設される前年の2007年度において,高齢者の割合は健保組合では4%に過ぎないが,国保では4割であった.こうしたアンバランスを是正するために,1983年の老人保健法以来,被用者保険は高齢者の医療費を賄うために拠出を行ってきた.そして,拠出額が保険料収入の4割にも迫ったこと,およびどのくらい拠出しているかがわかりにくかったことが,後期高齢者保険を創設する原動力であった.
Copyright © 2011, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.