視点
自殺防止
上畑 鉄之丞
1,2
1国立公衆衛生院
2過労死・自死相談センター
pp.168-172
発行日 2011年3月15日
Published Date 2011/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102054
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発端
平成10(1998)年のある日,筆者は,新聞の地方版に「ビジネスホテルで3人の中小企業経営者が心中,経営難示唆の遺書」の見出しで報じられた記事を見,当時の不景気の影響がこんな形で出ていることに驚きを禁じ得なかった.前年に山一証券や北海道拓殖銀行の倒産があり,不景気の風が吹き始めていた頃である.そして翌年,警視庁が前年の自殺死亡が3万2千人を越えたことを発表した.前々年の2万4千人から,実に1万人近くの人が通常より多く,自らいのちを絶ったのである.
ただ,当時は,「この数字は一時的で,いずれは元に戻る」との期待もあった.しかし,3万人を超える自殺は,翌年もその翌年も回復しなかった.当時,国立公衆衛生院にいた筆者は,この問題は放置できないと,当時厚生省の目玉政策だった「健康日本21」の「休養・こころの健康づくり」で,「最近1か月間にストレスを感じた人の割合を1割以上減少させる」,「眠りを助けるために睡眠補助品やアルコールを使う人を1割減少させる」,「うつ病等に対する適切な治療体制整備を図り自殺者を2万2千人以下にする」などの目標値について,病気の治療対策のみでは,目標達成は困難と批判したこともある.そして,「こころのゆとり」だけでなく,「時間のゆとり」,「家族との団らんのゆとり」,「健康休暇」の提案など,「休養」にかかわる具体的なエビデンスを積極的に示すよう求めた2).
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