連載 衛生行政キーワード・73
グローバル・ヘルスについて
西澤 和子
1
1厚生労働省大臣官房国際課国際協力室
pp.155-157
発行日 2011年2月15日
Published Date 2011/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401102036
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はじめに
近年,衛生行政の多くの分野で,国際社会での動きと国内政策が連動するようになってきている1).例えば,国境を越えて伝播し,世界の社会経済に大きな影響を与えることが懸念される,鳥・新型インフルエンザ等の感染症対策や食品安全等がその好例である.
1990年代の東西冷戦の終結と,グローバリゼイションの進行により,新興・再興感染症が容易に国境を越えて広がるリスクが増大しただけでなく,富の偏在により,国家間または国内の経済的格差の拡大を生み出した.保健医療の分野では,例えば保健人材の偏在に投影され,地域間格差,国家間での頭脳流出などが問題となっている(図1).また,気候変動等により,自然災害が頻発し,地球温暖化に伴う疾病構造の変化等も起こりつつある.一方,かつては歴然と存在していた,先進国と開発途上国の死亡原因の差異も,感染症対策等の進展などにより,今や徐々に似かよりつつあると予測される(図2).その結果,保健システムに関しても,少子・高齢化や経済危機下で,持続可能な社会保障制度の確立と保健財源の確保,医療提供体制整備等にどう取り組んでいくかは,各国共通の課題となっている.
こうした国境の枠を越えた各国共通の健康課題は,もはやこれまでの「国際保健(International Health)」の枠組み,つまり「富める国が貧しい国を支援する」という国単位の構造では対応できないものになりつつあると言われている.2000年代に入り,こうした変化に対応するための新たなパラダイムとして,「グローバル・ヘルス(Global Health)」が提唱されるようになった2).
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