特集 母子保健をめぐる今日的課題
法制定後の児童虐待対策の現状と課題
岩城 正光
1
1日本子どもの虐待防止民間ネットワーク
pp.854-859
発行日 2010年10月15日
Published Date 2010/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101923
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はじめに
連日のように,子ども虐待死が報道されている1).痛ましい事件が起きるたびに児童相談所の対応が問われ,そのたびに児童虐待防止法の見直しが検討されてきた.2000年に児童虐待防止法が制定されてから,2004年,2007年と2度にわたる改正がなされてきた2).しかし,児童虐待防止法が制定されてから今日まで,子どもの虐待死が減少したという事実はない3).これは,今までの子ども虐待に対するわが国の法制度や施策が,無力であったということを意味するのだろうか.だとすれば,今後どのような展望を描くべきなのだろうか.
筆者は,平成16年から現在に至るまで厚生労働省の虐待死亡検証の専門委員4)を務めていることから,虐待死亡が減少しないことや,連日の虐待報道に接するたびに,実に暗澹たる気持ちになる.今回,本稿のテーマである「児童虐待対策の現状と課題」をお引き受けしたものの,今まで私が公表してきた論文に対し,何か新しい視点や展望を追加できているのかおぼつかない.子ども虐待防止に対する法的施策についてわかりやすく説明しながら,私なりに抱いている今後の課題を,母子保健に携わる皆様方にご理解戴ければ何よりも幸甚である.
なお,わが国では,明治時代から子どもの虐待は社会問題として取り上げられていた.すでに1933(昭和8)年に帝国議会は児童虐待防止法を制定していた5).もちろん当時の子ども虐待の実態は,今日の実態とは大きく異なる.本稿では,2000(平成12)年に制定された児童虐待防止法以降を中心に取り上げている.
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