特集 児童虐待—危うい子育て環境そのサポート
児童虐待の世界の流れと日本の現状
中村 安秀
1
1東京大学医学部小児科
pp.804-807
発行日 1993年10月10日
Published Date 1993/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900767
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はじめに
子どもに対する虐待という概念の発生は,西欧社会とアジア社会では大きく異なっていたと思われる。わが国では元来「七つまでは神のうち」ともいわれ,子どもに対する社会的な許容度が非常に大きかったと考えられている。「日本人の性格として子どもたちの無邪気な行動に対しては寛大すぎるほど寛大であり,手で打つことなどとてもできることではないくらいである」というのは,1820年代に長崎出島のオランダ商館に勤務したフィッセルの見聞であるが1),幕末から明治初期に日本に滞在した外国人学者の多くは同様に日本人の子育てに賛辞を寄せている。しかし,同時に間引きや堕胎も社会の中で寛容されていたことを,私たちは思い起こす必要がある。
一方,中世ヨーロッパ社会では「子ども」という概念そのものが欠落していたといわれ,近代になって「子ども」の存在が発見され,新しい家族の感情が芽生えてきたといわれている2)。そのような背景の下,1874年にアメリカ合衆国で起きたメアリー・エレン事件を契機に動物虐待防止協会などを中心に子どもの人権に対する社会意識が高まる中で,19世紀後半に欧米諸国では児童虐待防止協会が設立された。
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