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はじめに
児童虐待について規定する法律には児童福祉法,母子保健法,児童虐待防止法(正式には「児童虐待の防止等に関する法律」という名称)がある。もともと,児童福祉法は1947年に公布され,その第二十五条には「要保護児童を発見した者は,これを市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」とあった。「要保護児童」とは児童福祉法第六条の三の ⑧ に「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童」と規定されている。「市町村,都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して」とあるが,「介する」ことは「通告する」ことと同一であるという実態になるため,「要保護児童を発見した者」は通告しなければならないとする通告義務であった。しかし,この国民の通告義務は長い間,義務とは認識されていなかった。事実,いわゆる児童虐待防止法制定の前年である1999年7月の厚生大臣の発言には「国民一般も,児童福祉法第二十五条の通告義務についてさらに認識を深めていくことは必要」との内容があり,国民の通告義務が十分に浸透していないことを認めていた1)。現在においても,病院,クリニックにおけるこの虐待の早期発見のための通告を躊躇している実態は否定できないのではないだろうか。児童虐待防止法は制定後も幾度か改正されてきた。小児科医として知っておくべき事柄の確認のため児童虐待防止法を改めて読み解くとともに,医師の立場からの通告のあり方についても概説する。なお,児童虐待防止法は児童福祉法と密接に関連しており,この2つの法律を対照しながら解釈する必要があるが,複雑になるため,本稿では児童虐待防止法に焦点を当てる。
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