特集 分子遺伝疫学
ゲノム時代の医科学研究の課題
村上 陽一郎
1
1東洋英和女学院大学
pp.776-779
発行日 2010年9月15日
Published Date 2010/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101899
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
一般的な観点から
現代は,科学研究の成果が,そのまま一般の生活者の「生」そのものに,大きな影響を与える時代である.19世紀ヨーロッパに,現代の意味での科学が一つの社会制度として誕生したときには,事態はまるで違っていた.科学者は,普通の生活者ならあまり関心を持たない固有の問題を解き明かそうと,自分の生涯を捧げるが,その研究の成果は,同じ関心を抱く僅かな数の同僚の間でのみ,受容され,評価されるのみで,一般社会に対しての影響は,有機化学の一部を除けば皆無であった,と言えるだろう.この状態は,部分的には現在でも存続している.科学は,科学者個人の好奇心を満足させる営みとして成立したからである.一般の生活者は,「ああ,妙なことに情熱を燃やして研究している人がいるなあ」と受け止めていればそれでよかったのである.
別の言い方をすれば,科学研究の成果を利用しようとするクライアントは,本来一般社会のなかには存在しなかった.産業や国家行政が,科学研究のクライアントとして名乗りを上げるのは,第二次世界大戦前後のことである.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.