特集 21世紀のいのち
ゲノム時代の人間
清水 信義
1
1慶應義塾大学医学部分子生物学
pp.35-38
発行日 2001年1月25日
Published Date 2001/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611902564
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21世紀はゲノムとITの時代と言われている。ゲノム(Genome)とは遺伝学で使われる遺伝子(Gene)と染色体(Chromosome)を組み合わせた造語で,すべての生物の設計図のことを意味する。ゲノムの化学的実体はDNA(デオキシリボ核酸)というひも状の長大な分子であり,それはA-G-C-Tという化学の4文字すなわち塩基(アデニン,グアニン,シトシン,チミン)が糖とリン酸で連なった長い配列からできている。ヒトゲノムの場合,その塩基(文字)は全部で30億あり,その文字列の中に推定10万種類の遺伝子が含まれている。遺伝子からは特徴的なタンパク質が作られ,そのタンパク質の相互作用によって生命の営みが支えられているのである。
この膨大な遺伝情報が受精の瞬間に両親から子供へ染色体DNAとして伝えられるのであり,生物学的には,その瞬間こそ生命誕生の時であると考えている。染色体DNAの情報を,父親から半分,母親から半分もらって融合し完全なゲノムとなる。そして,受精卵は卵割・細胞分裂を始め,細胞の数を増やすとともに様々なタイプの細胞に分化し,いろいろな組織や臓器を構築しながら胎児が発達していく。受精卵のゲノムから全てがスタートして,60兆個ぐらいの細胞になった結果が我々の身体である。身体のいろいろな組織の細胞(体細胞)はそれぞれ特徴的な形をし,特別な働きをもっているが,全ての体細胞の中心には核がある。
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