視点
公衆衛生学は人間集団を対象とする科学(Science)であり技(Art)である
田中 平三
1
1神奈川工科大学(応用バイオ科学部栄養生命科学科)
pp.446-448
発行日 2010年6月15日
Published Date 2010/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101823
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私が大阪市立大学医学部に入学したのは,1959年である.当時,日本の脳卒中死亡率は世界一であり,国内では東北・北関東・甲信越で高く,近畿・瀬戸内海沿岸で低かった.脳卒中に関するコホート研究はなく,臨床医学の場での経験から,高血圧が脳卒中危険因子とされていた.大企業では,健康診断時に血圧測定が行われていたが,農山村在住者は,都市在住者に比べて,脳卒中死亡率がはるかに高かったにもかかわらず,血圧測定を受けたことがあるという人々は30%にも満たなかった.患者は自主的にクリニックを受診するので,医師は椅子に座って患者の訪問を待てばよい.しかし,一見健康者は,クリニックを訪れて血圧測定を受けることはないので,医師が“患者”を訪問することになる.
このようなことを知った私は,医学部4回生の終わり頃に,農村の人々に血圧測定の機会を提供すべきであるという思いにかられ,公衆衛生学教室(大和田國夫教授)の主催する集団検診に参加した.そして,インターンを終え,医師免許証を取得後,大学院公衆衛生学専攻に入学した.研究よりも,検診に従事する時間が長かった.地域の集落を巡回し(「どさ回りの医者」と自称していた),写真に示したように,公民館や小学校の教室を借りて,検診と事後指導を行った.心電図・眼底撮影フィルムの読影,血液一般検査や血清コレステロール等生化学的検査の測定も,自身で行った.
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