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あとがき
高鳥毛 敏雄
pp.260
発行日 2010年3月15日
Published Date 2010/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101766
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大正13年生まれの芥川賞も受賞した小説家,安部公房(1948年に医学部を卒業.しかし医師免許は修得していない)の短編小説「赤い繭」(昭和25年発表)を読むと,ハッとさせられる表現があります.「日が暮れかかる.人はねぐらに急ぐときだが,おれには帰る家がない.おれは家と家との間の狭い割れ目をゆっくり歩き続ける.街じゅうこんなにたくさんの家が並んでいるのに,おれの家が一軒もないのはなぜだろう?」.「おれは首をくくりたくなった」.「なぜおれの家がないのか納得のゆく理由がつかめないんだ」という表現で,小説がはじまっています.
戦後の混乱期において,住居のない人が多かった時代を写しているものと思われます.そのような人間は死ぬしかないのか,また寝場所がないのは個人の責任なのか,などの問いかけは,自殺者が増加しているわが国の公衆衛生制度のあり方について,われわれに問いかけをしているように思えてなりません.
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