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はじめに―がん対策だからこそヘルスプロモーション活動を
健康はどこでつくられているのか.WHOの健康の定義論争にも見られるように,人々の健康観が拡大した今日,多様な健康観を支援するための施策のあり方が議論されている.その経過の1つにWHOが1986年から7回に亘り開催してきた,国際会議の中で検討されているヘルスプロモーション戦略がある(表1).
ヘルスプロモーションとは,人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし改善することができるようにするプロセスであると定義される1,2).図1は,ヘルスプロモーションの考え方を導入した島内によって作成された図解ヘルスプロモーション3)である.
この図は,人々の健康を支援するためには健康的なライフスタイルの形成とそれを支援するための環境整備が必要であることを提示している.この2つ(ライフスタイル形成と環境整備)の考え方は,それぞれ厚生労働省の健康日本21(2000年)4)や健康文化都市構想(1992年)5)等に反映され,多くの地方自治体健康部門関係者の間で認知されるようになった.その結果,健康なまちづくりや健康なコミュニティづくりを通じて,従来の保健事業を市民と共に遂行していこうとする自治体が多く見られるようになった.
ところが,2000年代に入ると,国では高齢化やそれに伴う医療費高騰を背景に,疾病対策が強調されるようになった.疾病予防や健康づくりを進めてきた市町村では,それまで取り組んできたポピュレーションアプローチによる事業展開から,特定健診・特定保健指導の導入により再びハイリスクアプローチを主体とした取り組みを余儀なくされ,両アプローチの兼ね合いを懸念する自治体関係者の間では,混乱の時期を迎えている.このような現状を察する限り,わが国の疾病対策はハイリスクアプローチを主体としているように見える.しかし,次なる課題として提起されたがん対策ではどうだろうか.がんという疾病に対する対策ではあるが,がん対策だからこそ,両アプローチを包含しうるヘルスプロモーション活動が再び必要とされる理由を,本稿で述べたい.
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