- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
私が医師になった40年近く前に比べれば,世の中も医療・福祉界でも,禁煙への取り組みは格段に進んでいる.当時は外来でたばこを吸いながら診療する医師すらいたし,バスや電車の中で,すぐそばでたばこを吸われることは日常茶飯事であった.今は,新幹線やタクシー内での禁煙が広がっていて,旅や移動も楽になってきてはいる.しかし,未だ道路で堂々と吸いながら歩き,後ろの人に煙を浴びせて平気という喫煙者も多い.つい先日もある配送会社の衛生管理者との話で,男女共に運転手の高い喫煙率が話題になった.いくら禁煙・分煙が叫ばれていても運転席は自分の世界,一向に禁煙が進まないと言うのである.しかも,職場の交流会となると夜半まで子ども同伴者が多いそうなのだが,皆平気で子どもに煙を吹きかけたまま宴席が盛り上がっていて心を痛めている,とのことであった.
私は呼吸器を中心とした一般診療と塵肺・石綿を含む産業医学診療を併せて進めてきていて,禁煙外来も設けているが,最近禁煙外来受診者に混じって「受動喫煙診断書」を求めてきたり,「会社を訴えたい」という希望で来られる方も増えてきている.話を聞くと職場での禁煙推進の現状は「まだまだ」というのが実感である.医療関係者と教育関係者が禁煙に熱心でないと,国の禁煙は進まないという話を聞いたことがある.
この間喫煙の害や禁煙の必要性についての書籍も多く発刊されてきている1~9).今以上に禁煙を進めるには,医療・福祉関係者の禁煙活動のさらなる推進と共に,「職場での禁煙推進」が重要ではないかと痛感する.2004年に筆者はある雑誌の特集号で職場での禁煙指導について執筆したが10),本稿ではその後の取り組みも追加しながら,現状と課題を整理する.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.