特集 地域精神保健・医療の今日的課題
心神喪失者等医療観察法施行後の課題
山本 輝之
1
1明治学院大学法学部法律学科
pp.433-437
発行日 2009年6月15日
Published Date 2009/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101574
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はじめに
2003年に,「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察に関する法律」(以下「医療観察法」,「法律」または「法」ということもある)が制定・公布され,2005年7月から施行された.これは,殺人,放火,強盗,強姦,強制わいせつ,傷害という重大な他害行為を行ったが,不起訴処分となった心神喪失者,心神耗弱者または責任無能力を理由として無罪の確定判決を受けた者あるいは限定責任能力を理由として自由刑の執行を免れた者(以下,これらの者を「対象者」ということもある)に対し,適切な処遇を決定するための手続き等を定めることにより,継続的かつ適切な医療ならびにその確保のために必要な観察および指導を行うことによって,その病状の改善およびこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り,その社会復帰を促進することを目的として制定されたものである(1条).
この法律は,重大な他害行為を行った精神障害者の処遇を,裁判所が決定するという新たな司法処分の制度を創設したものである.この法律が施行されるまで,このような精神障害者に対する強制入院の決定,処遇の変更,退院の決定などは,事実上精神保健指定医による診断を基礎として,精神医療側が決定し,厚生労働省の責任において行われてきた.医療観察法は,この従来のあり方を大きく転換したのである.
この法律の施行後,その運用についてさまざまな問題点や課題が指摘されているが,その1つが,地域精神保健・医療にかかわる課題,とりわけ「入院によらない医療」の整備や地域精神医療における対象者の処遇の問題である.そこで本稿では,その現状と問題について,若干の考察を行うものである.
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