特集 健康食品をめぐって
サプリメントの有効性の疫学研究
下方 浩史
1
,
安藤 富士子
2
1国立長寿医療センター研究所疫学研究部
2愛知淑徳大学医療福祉学部医療貢献学科
pp.25-30
発行日 2009年1月15日
Published Date 2009/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401101474
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栄養疫学とサプリメント
明治時代,脚気は国民病であり,特に兵士の罹病,死亡例が多かった.当時の海軍軍医総監であった高木兼寛は白米と麦による動物飼育実験の結果などにより,西洋諸国で脚気が少ないことはパン食による麦の摂取のためであると考えた.遠洋航海での麦飯混合食の試行実験を実施し,脚気患者が1人も出なかったことから,明治18年,海軍の食事をすべて麦飯混合食へ切り替えた.その結果,海軍から脚気がなくなった.これは日本で最初の栄養疫学的な観察研究,介入研究であると言える.一方,陸軍では森鴎外が軍医総監であり,ドイツ流の病理学や細菌学を採用し,脚気は脚気菌によるものと考えていた.このため麦飯混合食は陸軍では採用されず,その結果,陸軍では多数の死亡者が出て,日清戦争では戦死者よりも脚気による病死者のほうが多かったと言われる.
鈴木梅太郎が抗脚気因子であるオリザニン(ビタミンB1)を発見するのは明治43年である.それまではなぜ麦飯が脚気を予防するのかわからず,森鴎外らによって「科学的根拠がない」として否定されたわけである.これは疫学的研究と病理学的研究の差を示すものであろう.疫学でははっきりとした理由がわからなくても,観察研究,コホート研究,介入研究などで関連性が明らかになれば,それは科学的事実として認め,予防に役立てていく.この結果,麦飯混合食で何万人もの人命が救われたのである.逆に「科学的根拠」があるとされる場合にも,疫学的研究で否定される場合もある.試験管での実験の結果で有効である根拠が示され,また動物実験でも有効であった成分が人ではまったく無効であったり有害であったりする.
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