巻頭言
先進に学ぶもの
西丸 和義
1
1広島大学
pp.65-66
発行日 1954年3月15日
Published Date 1954/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404200138
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屍体解剖で空虚である動脈を見たErasitralus(300B.C.)は,生体ではpneumaが流れると考えた。Galen (125-201A.D.)は生体解剖で動脈の切口から血液が噴出するのを見たのに,動脈はpneumaと血液とが流れるとした。即ち医聖と言われるGalenでさえ先進の思想から自由になる事の至難さが見られる。而して此のpneumaの考えから自由になつて,動脈の中を血液のみが流れるとするためには2000年近い年月を要したわけである。
Harveyは神のみぞ知ると言われた心臟の運動について,80余種の動物について比較生理学的に実験してこれを明らかにし,更に心臟からの搏出量,動脈により血液が末梢に流れ,弁の作用によつて静脈を心臟へ血液が流れる,この三つの事からCirculationと言う考えを生んだ。即ちErasitratusによつて考えられた,体液の流れが500年後Galenによつて訂正され,それから1200年後Harveyによつて全く改変された。その後の300年Harveyの考えは誰も事実として疑わないで,此の考えに組織液及び,リンパ液の流れがつけ加えられて居るのみである。然し此のHa—rveyの考えも此れから何年無事であろうか。
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