特集 地域から取り組むリプロダクティブ・ヘルス―新しい出産像を求めて
地域における出産―EBMの視点から
三砂 ちづる
1
1国立保健医療科学院疫学部
pp.174-178
発行日 2003年3月1日
Published Date 2003/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401100819
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地域の出産の場から
いくつかの地域に根ざした助産所をはじめとする,規模の小さな出産の場には,いつも賑わいの中の静謐といった雰囲気が満ちていて,足を踏み入れるだけでうれしい.出産した女性がとても元気で,穏やかで,赤ちゃんの表情がいい.出産後の母子が助産院の畳の部屋で幸せそうな表情をして一緒に横になっているのを見ると,「至福の時」とはこういうことなのだなと思う.「母子保健の推進」という言葉に,一つのかたちが見えるような気がする.
先日は家庭内暴力で悩んでいた女性が出産したそうである.彼女は夫と別れることを考えてはいても,生活や上の子どものことを考えると,どうしても別れることができない.助産婦さんにそんな思いを口にしながらの妊娠・出産だったという.その助産院の『お産の感想ノート』1)には,「あるがままを受け止められていました」「それでいいのよ,それでいいのよ,と励ましてもらったことがなによりうれしかった」「上手上手,とほめてもらったから乗りきれた.私もこうやって子どもをほめて育てていこう」といった,自らのあるがままを受け止められて出産に臨んだ女性たちの言葉が並んでいる.そういう,助産院なのである.この女性も,家庭内暴力に関する自らの気持ちは,出産に向けて,十分に助産婦さんに受け止められていたようである.
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